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MC Cartridge 10XAReview

MCカートリッジ 10XA レビュー(Stereo 2025年9月号)

音楽之友社が発行する「Stereo 2025年9月号」に掲載されたMCカートリッジ10XAのレビューをご紹介します。以下は音楽之友社の許可を受けて掲載しています。

Stereo 2025年9月号誌面

話題の新製品を聴く - Stereo試聴室

1978年から続くMCカートリッジ、10Xシリーズ。ダイナベクターのラインアップ中では赤いボディが特徴的なエントリーモデルになるが、これまでアルミ削り出しヘッドブロック、強力なネオジム磁石、磁気回路内の磁力の変動を抑えるフラックス・ダンパーおよびソフト化マグネットなどの独自理論磁気回路、レコードの溝への追従性がよく高域特性に優れるシバタ針タイプIIIや硬質アルミニウムパイプ・カンチレバーなどを採用して進化してきた。今回のモデルはそれらに加え、2024年開発の特殊焼鈍を用いた磁気回路を採用。もともと純鉄が用いられた磁気回路パーツだが特殊焼鈍はMCカートリッジ用に最適化するもの。10XAにもMM型並の出力を持つHタイプと、一般MC型出力のLタイプがあるが、今回はLタイプを試聴した。

伸び伸びとした開放感が本機の特徴

以前に取り上げたDV 20X2Aと比べると外観はかなり異なるが、音質的な傾向は伸び伸びとした大らかさなど重なる部分が多いようだ。ただし、20X2Aの針はマイクロリッジに対して本機はシバタ針という違いはある。低出力型であっても0.5mVと高く、元気のよさや溌剌感にも貢献しているようだ。それだけに繊細な表現力という方向ではなく、伸び伸びとした開放感が本機の特徴とみることができ、ジャズではスイング感に溢れ、旋律楽器の張り出しも充分なものを感じさせ、充分な中低域の厚みも聴かせる。弦楽合奏ではヴィオラやチェロの動きも音の弾みに充分に貢献している。ヴォーカルは神経質さを抑え、伸び伸びと歌い上げる説得力を感じ取ることができる。(石田善之:8)

長い時間音楽と向き合える傾向の音

1978年の初代発売時は、MMポジションで演奏できる高出力MCとして人気を博した。以来シバタ針、ソフト化マグネットの採用などで現在に至る。今回のキモは特殊磁気焼鈍(焼き鈍し)採用の磁気回路だ。大きな特長は人間の声だった。例えばキャロル・キッドだが、極めて滑らかで暖かい声が気持ちよい。そしてタジ・マハールの枯れて荒れたヴォーカルは聴きやすく心に染みる。反面ブルーズハープの付帯音は抑えめだった。この辺、低歪みを実現したソフト化マグネット、そして今回の特殊焼鈍磁気回路の効果と感じられた。クラシックの《四季》では中域を中心とした、抑制の効いたハーモニーが楽しめた。派手さこそないが、長い時間音楽と向き合える傾向の音といえる。(岩出和美:8)

音場再現が豊かでデリケートな表現力

過去の資産を現在に受け継ぎながら新機軸を注ぎ込んだMCカートリッジである。MMポジションで使える高出力型も用意されている。ともに高域特性に優れたシバタ針を採用し、磁気回路にネオジム磁石を採用して変換効率を高めている。音場再現が豊かでデリケートな表現力を備えている。今まではどちらかというと活力を引き出すイメージだったが、本機は響きを大切にした音づくりがなされているように感じた。クラシックの楽曲ではそうした特性が生かされているし、低域に向かっては重量感も伝えるがいくぶん甘口。ジャズ系の楽曲ではアタックはおとなしく、ソフィスティケートされた音を聴かせる。ヴォーカルソフトも落ち着きがあり、傾向としては優しいイメージのサウンドである。(潮晴男:7)

ナチュラルで柔らかく落ち着いたサウンド

ダイナベクターは1978年当時のMC型20A TYPE2がコレクションにあり、解像度の高い性能は素晴らしい。今回は磁気回路を改良して性能アップした製品とある。試聴は低出力モデルの10XA-Lで負荷は100Ω。ただ、この条件ではあまり切れのいい鮮明感を出す傾向ではなく、かなりおとなしい印象で推移する。このおとなしさは強いキャラクターを発生することがなく、どのようなプログラムを再生してもナチュラルで柔らかく落ち着いたサウンドであることが特色になる。中低音はボリューム感のある厚手な傾向で安定。中音高音はきめ細かく展開して鮮明感は弱い。負荷抵抗は100Ω以上と表示されているが、現実的にはもっと高い負荷抵抗を組み合わせたい印象である。(福田雅光:7.5)


MCカートリッジ 10XA

「話題の新製品を聴く」の取材方法は、ジャンルごとに4名の担当テスターが同時に試聴を行ない、10点法で採点しています。 6点は「水準の製品」、7点は「水準以上の製品」、8点は「優れている製品」、9点は「非常に優れている製品」。 採点はすべて価格を考慮した対価格評価方式で、デザインや機能性、使用感などのユーザビリティも考慮した評価です。

【リファレンス機材リスト】
レコードプレーヤー:SME MODEL20MKII+SME3009R
フォノイコライザー:アキュフェーズ C-57
コントロールアンプ:アキュフェーズ C-3900
パワーアンプ:アキュフェーズ A-300、同P-7500、同A-80
スピーカーシステム:フォステクス RS-2 with NW-3、同G2000a


Copyright (C) 音楽之友社 September 2025

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