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MC Cartridge 10XAReview

MCカートリッジ 10XA レビュー by Chris Frankland

The Earは、様々なオーディオ機器や音源を評価している英国の情報サイトです。以下訳文はThe Earの許可を受けて掲載しています。原文(英語)はDynavector DV 10XA: updating a legendをご参照下さい。


MCカートリッジ 10XA

ダイナベクター DV 10XA MCカートリッジ

ダイナベクターが最初のDV 10Xカートリッジを発表したのは、今からほぼ50年前、1978年のことです。これは同社にとって初めてのカートリッジであり、当時世界初の「高出力MCカートリッジ」として大きな話題を呼びました。

超極細線を採用することでアーマチュアにより多くのコイルを巻くことが可能になり、その結果MM入力に直接接続できるほどの高い出力電圧を得ることに成功したのが、ダイナベクターの高出力MCカートリッジです。これにより、MCカートリッジならではの音質的メリットを、MC昇圧トランスやヘッドアンプを必要とせずに楽しめるようになったのです。

私自身も当時このカートリッジを使っていました。ThorensのターンテーブルTD124にFormula IVユニピボットアームを組み合わせ、A級アンプのSugden A48へ繋いでいましたが、その音は本当に素晴らしいものでした。

そして今年(2025年)、10Xシリーズの最新世代として新たに登場したのが、このDV 10XAです。高出力仕様(DV 10XA-H:2.8mV)と低出力仕様(DV 10XA-L:0.5mV)の2種類が用意され、どちらも価格は11万円です。本レビューでは低出力仕様の10XA-Lを取り上げます。

MCカートリッジ 10XAの使用イメージ1

初代から、10Xシリーズには幾度となく改良が加えられてきました。今回の10XAは、2018年に登場した10X5 MkII(2026年まで継続販売予定で、現在は特価販売中)を受け継ぐ形で開発されたモデルです。

10XAには、同社が新たに開発した「特殊磁気焼鈍」技術を採用した磁気回路が搭載されています。この技術は、昨年発表されたXX-2Aや20X-2Aで初めて導入されたものでした。

忍者のノウハウ

焼鈍(アニーリング)処理は、加熱と冷却を組み合わせた処理のことで、純鉄部品の製造過程で生じる微細な結晶構造の損傷を回復させ、透磁率を元の状態に戻すために行われます。これは金属を強化するための「焼入れ」とは逆のプロセスで、金属を柔らかくし、硬度としなやかさを両立させるための処理です。まさに日本刀の製造に用いられていた技術と同じものです。焼入れの際に行われる急冷とは異なり、加熱後の鉄をゆっくりと冷ますことで実現します。

ダイナベクターの特殊磁気焼鈍プロセスは、炉内のガスを精密に制御する必要がある特殊なもので、これにより透磁率や保磁力が改善し、磁気回路の性能向上につながるとされています。

さらに、10XAにはXX-2Aや20X-2Aでも採用されていた「フラックスダンパー」と「ソフト化マグネット」技術も搭載されています。ダイナベクターは、カンチレバーやコイルがエアギャップ内で振動することによって磁気干渉が生じる事、そしてその磁気干渉が音質に悪影響を与えることを発見しました。そのため、磁束の揺らぎを抑えるためのダンパーを装着し、音質劣化を防いでいます。

「ソフト化マグネット」とは、出力電圧を高めるために使われる強力な希土類磁石がもたらす問題への解決策です。磁石に透磁率の高い素材を貼り付けることで、極端に高い磁気抵抗によって生じる磁束密度の大きな揺らぎ(音に耳障りな響きを加える可能性があるとのこと)を抑え、音が硬くなったり、刺々しくなったりするのを防いでいます。

MCカートリッジ 10XAの別アングル

外観は、シリーズの象徴とも言える赤い樹脂ボディを採用していています。内部構造としては、発電機構を堅牢なアルミ製ヘッドブロックにしっかりと固定してあり、カートリッジ取り付け用のネジ穴も事前に加工されています。

生き生きとした表現力と卓越した技巧

DV-10XAの試聴には、Michell Gyro SEターンテーブルにSorane SA1.2トーンアームを組み合わせました。今回は低出力仕様(10XA-L)のみをテストしたため、Gold NoteのPH-10フォノステージとSugden A21アンプを通し、Russell K Red120スピーカーで再生しました。

出力0.5mVに合わせてPH-10のゲインを68dBに設定し、インピーダンスはダイナベクター推奨値の100Ωに設定します。針圧は推奨範囲1.8〜2.2gの中で試した結果、1.9gが最適と判断しました。今回のセットアップではこれが理想的な設定でした。

市場での立ち位置を確認するため、信頼性の高い競合モデル(価格は10万円強)を同じヘッドシェルに装着して比較試聴を行いました。DV-10XAが本当に推薦に値するかどうかは、この競合機を凌駕できるかにかかっていす。

まず試聴したのは、Chris Walkerが故Al Jarreauに捧げたアルバム『We're in This Love Together』です。タイトル曲を再生すると、冒頭からWalkerの歌声の開放感と表現力、明瞭でフォーカスの合ったピアノ、そして深みと力強さを備えつつも機敏なベースラインに感銘を受けました。Gerald Albrightの素晴らしいサックスも開放的かつ雄弁で、10XAによってその技巧やニュアンスをじっくりと聴き取ることが出来ました。競合カートリッジでは低音がやや膨らみすぎ、音全体が温かみ寄りに傾きました。10XA-Lの方が音楽的な満足感において勝っていると感じました。

MCカートリッジ 10XAの使用イメージ2

次に、最近購入して気に入っているFergus McCreadie(ピアニスト兼作曲家)のアルバム『Stream』から「Sun Pillars」を試聴しましたが、これが実に魅力的でした。競合機ではピアノの音色やボイシングが少し不自然に感じられましたが、10XAに替えると、私が普段聴き慣れている音に近く、今年ロニー・スコッツで聴いた生演奏の響きにもより近づきました。競合機は温かさが過剰でぼやけ気味、対して10XAは切れ味鋭く、高音域のアタックから低域の厚みまでしっかりと描きます。パーカッションのディテールも繊細で、ダブルベースの抑揚や動きがより説得力を持って再現されました。スタッカートのリズム感も鮮明で、McCreadieの技巧とエネルギー、そしてStephen Henderson(ドラマー)の繊細なタッチまでもが際立っていました。

続いて、私はLinda Ronstadtの大ファンなので、彼女がWarren Zevonの楽曲をカバーした「Poor Poor Pitiful Me」を試聴しました。10XAでは冒頭のシンセドラム風のイントロがより鋭く、力強く、厚みが際立っていました。彼女の歌声は競合機よりもクリアーで感情豊か、かつ耳障りな感じが抑えられています。ベースラインもタイトに引き締まり、エレキギターはより鮮明ですっきりとしています。全体として10XAではエネルギーと勢いが感じられました。楽器のすべての要素をきちんと調和し、Ronstadtの声の圧倒的なパワーと音域、そして魅惑的な艶やかさまで余すところなく伝えてくれました。

MCカートリッジ 10XAの使用イメージ3

最後に試聴したのは、ギタリストJulian Lageの最新作『Speak to Me』より「Omission」です。10XAは彼の演奏の内なるニュアンスをより豊かに描写し、細やかなニュアンスの違いまで聴き取らせてくれました。タムやスネアのストロークもより力強く、ベースラインは機敏かつ明確な表現力があり、エレキベースとアコースティックベースの違いを見事に描き分けました。

そして三機種目に

今回のDV-10XAで、私はこの2年間にダイナベクター製カートリッジを3モデル試聴したことになります。いずれもダイナベクターの新しいアニーリング処理を採用しており、その性能に感銘を受けました。

10XAは精巧に作り込まれ、美しい仕上がりを持つカートリッジです。仕上げまで丁寧に作り込まれており、音はクリアーで開放的かつダイナミックです。その優れた解像力により、卓越した音楽家ならではの繊細なニュアンスや表現をしっかりと聴き取り、味わうことができます。また、音楽のリズム感やエネルギー感も見事に伝え、聴いているうちに自然と足でビートを刻みたくなります。どんな音源でも難なく再生できたことは、冶金学的な処理がカートリッジの音に及ぼす影響について突き詰めて研究したダイナベクターの成果が、10XAのみならず昨年レビューしたDV 20X-2AやXX-2Aでも大きな成果を上げていることを示しています。

私はこのDV-10XAを心から推薦します。パフォーマンス、価格の両面で優れた価値を提供するモデルです。もしお使いのアンプがMM入力しか備えていない場合でも、同価格で用意されている高出力仕様(10XA-H)を選べば、ステップアップトランスや専用フォノステージを追加購入する費用を節約できます。


Copyright (C) The Ear September 2025

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