パッシブ・クロスオーバーの話

■ なぜクロスオーバー・ネットワークが必要か
 クロスオーバー・ネットワークとは特定の周波数帯域を分割するフィルターのことで、デバイディング・ネットワークとも呼ばれます。フルレンジスピーカのように音楽信号の全周波数帯域(低音から高音まで)を、1本のスピーカでカバーする場合クロスオーバー・ネットワークは必要はありません。

 しかし1つのスピーカで超低音から超高音までを理想的に再生できるスピーカは未だ存在せず、現在のハイファイスピーカシステムでは低音域を受け持つ「ウーファ」、高音域を受け持つ「トゥイータ」など再生帯域に応じて複数個のスピーカを使用することにより幅広い再生周波数帯域を確保しています。

 ここで必要になるのが、そのスピーカの能力に見合った再生周波数を分割するためのフィルターでこれをクロスオーバー・ネットワーク(以下クロスオーバーと呼ぶ)と呼びます。クロスオーバーには低音域を再生するための「ローパスフィルター(LPF)」と高音域を再生するための「ハイパスフィルター(HPF)」があります。この他中低域を受け持つミッドレンジ用の「バンドパスフィルター(BPF)」がありますが、これはローパスフィルターとハイパスフィルターを組み合わせたものです。


■ パッシブ・クロスオーバーとアクティブ・クロスオーバー
 クロスオーバーには「パッシブ」型「アクティブ」型があります。
  • パッシブ・クロスオーバー : 主な構成部品はコイルとコンデンサーで電源回路を必要としないため「パッシブ」とよばれスピーカに付属している簡単なものから、良質な部品を使用した本格的なものがあります。以下この項で扱うクロスオーバーは「パッシブ」に限定します。

  • アクティブ・クロスオーバー : エレクトリック・クロスオーバー(チャンネル・デバイダー)とも呼ばれ、フィルター構成部品の抵抗とコンデンサーの他、バーファ回路、電源回路などが必要です。このタイプのクロスオーバーでは周波数切替え、フィルタースロープの切替え等、各種設定が容易に可変できるタイプが多く使用勝手は良いと言えます。しかしその反面低域用、高域用等複数のパワーアンプが必要になりシステムが複雑になると共にコストアップに繋がります。またパッシブでは制作困難な急峻なスロープを持つフィルター特性が容易に得られますが、良質な製品を使用しないと音質劣化の原因になります。


■ パッシブとアクティブの併用がお薦め
 サブウーファとウーファとの低いクロス周波数(100Hz付近)のフィルターにはアクティブ・クロスオーバーをウーファとトゥイータとの比較的高いクロス周波数(3,000Hz以上)にはパッシブクロスオーバーを使用するなど、両方の利点を生かした使用方法をお勧めします。

低いクロス周波数を良質なパッシブ型で急峻なスロープ特性を実現するには、各パーツが大型化すると共にかなりのコスト高になってしまいます。特にフィルターのスロープを18dB/oct以上にするには現実的ではありません。このクロス周波数帯域はアクティブ型のフィルター(パワーアンプ内蔵のフィルターを含む)を使用することをお薦めします。

高いクロス周波数は良質な部品を使用したパッシブ型のクロスオーバー使用します。特に良質なコンデンサの選択により、その音質向上効果は著しくスピーカのグレードがアップします。

パッシブとアクティブの併用


■ クロスオーバーの基本
 クロスオーバーを構成する主な部品は「コイル」「コンデンサ」でそれぞれの次のような性質によりフィルターを構成し、 接続方法とその値でクロスオーバー周波数(fc)が決まります。
  • コ イ ル (L)単位 :mH(ミリエンリー)
    スピーカに直列に接続すると周波数の低い音を通し、高い音を通さない。(ローパスフィルター)

  • コンデンサ(C)単位 :μF(マイクロファラッド)
    スピーカに直列に接続すると周波数の高い音を通し、低い音を通さない。(ハイパスフィルター)

コイルとコンデンサーの役割


■ クロスオーバーの種類
 通常カーオーディオに使用されるクロスオーバーは2WAYと3WAYのものが多く、前者は周波数帯域を低域と高域に分割したもの。 後者は周波数帯域を低域、中域、高域と3つに分割したものです。

クロスオーバーの種類


■ スロープ特性
 通常スピーカに使用されるクロス周波数でのフィルター減衰特性には、次の4種類があります。例えば6dB/oct(‐3dBクロス)とはオクターブ周波数毎に6dB減衰するフィルター特性で図のようにクロスポイントでハイパスフィルターとローパスフィルターが3dB落ちでクロスするものです。スロープ特性の選択は特に決まった約束はなく、使用スピーカや使用目的により選択します。現在カーオーディオ専門ショップではそのスピーカユニットの能力を最大限発揮できるよう、より急峻なスロープ特性を採用する傾向にあります。

スロープ特性


■ アッテネータ
 ウーファとトゥイータの能率が異なる場合や取り付け位置によりお互いの音量バランスをとる必要がある場合はアッテネータを使用します。アッテネータには次のような固定式のものと連続可変式ものがあり、ウーファとトゥイータの能率差が10dB以上ある場合は固定型で6dB程度下げてから連続可変型で微調整します。
  • 固定式アッテネータ----抵抗2本を組み合わせて必要な減衰量を得る。音の劣化が少ない。
    必要な減衰量をA(dB) とすると抵抗R1、R2は次式で求めます。インピーダンスが8Ωの時のR1,R2値に対して、16Ωのスピーカでは共に2倍、4Ωの場合は1/2倍の値にします。実際に使用する抵抗値は市販されている値で計算値に近いものを使用します。

    アッテネータ-用としては不燃性であり放熱性に優れる5W〜10Wのセメント抵抗が広く使われています。

    減衰量の算出式


    減衰量(dB) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
    8Ωの場合 R1 (Ω) 0.9 1.7 2.3 3.0 3.5 4.0 4.4 4.8 5.2 5.5
    R2 (Ω) 65.6 30.9 19.4 13.7 10.3 8.0 6.5 5.3 4.4 3.7
    4Ωの場合 R1 (Ω) 0.45 0.9 1.2 1.5 1.8 2.0 2.2 2.4 2.6 2.8
    R2 (Ω) 33 15.5 9.7 6.9 5.2 4.0 3.3 2.7 2.2 1.9

  • 連続可変式アッテネータ----市販のスピーカ用アッテネータ。4Ω用と8Ω用がある。固定式に比べ音質劣化がある。

アッテネータの種類


■ インピーダンス補正回路
 パッシブクロスオーバの設計ではスピーカのインピーダンスを一定として各定数を算出しますが、実際のスピーカでは最低共振周波数(fs)を中心にした動インピーダンスと、高域におけるボイスコイルのインダクタンスによるインピーダンス上昇があり、負荷インピーダンス一定と仮定したネットワーク設計では希望どうりの特性が得られません。

 このインピーダンス上昇分を補正しないと、遮断特性が狂うだけでなく、位相特性を乱したり、クロス周波数が設計値と異なった値になったり、周波数特性にディップが生じることがあります。 そのためできるだけスピーカのインピーダンス特性が平坦になるよう補正する必要があります。

foの山を補正するのを最低共振周波数におけるインピーダンス補正、高域のボイスコイルのインダクタンス上昇によるものを高域のインピーダンス補正と呼び、各々適切な定数を持つコイル、コンデンサ、抵抗による直列回路をスピーカに並列に接続することにより補正できます。

(98/12/3)


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